プロジェクトの背景
工場の製造現場や屋外の施工現場では、夏の猛暑による従業員の健康への影響や事故発生時の早期発見が喫緊の課題となっている。特に、大規模な製造・施工現場では、従事する作業員の数の多さや監視するエリアの広さから、現場監督者による監督責任の負担が大きく、安全な労働環境の構築にはデジタル技術の導入が不可欠である。
このような背景のなか、クライアント企業である建材メーカーでは、デジタル技術の導入による効率化・省人化に取り組んでおり、その一環として従業員の安全をデジタル技術により確保し現場監督者の負担を軽減する施策を企図していた。安全管理のデジタル化を実現するためには現場の状況に応じたソリューションを選定することが重要であり、JP東京はプロジェクトの推進にむけ支援を実施した。
プロジェクトの進行
① リスク要因の整理
② ソリューションの選定
従業員自身の体調や活動に起因するリスクと、作業環境に起因するリスクに分類し、それぞれに対応するためのソリューションを選定
体調のモニタリングに携行の利便性や汎用性の観点から時計型のソリューションを選定。外部環境のモニタリングには、同ソリューションと同期可能なWBGT計測センサーを選定
通信機器が多く設置される工場においてデバイス間の通信による既存の無線通信への干渉の影響を考慮し、LPWAネットワークを採用
③ 検証の実施と評価
④ 検証結果の取りまとめと報告
Insights and Recommendations
本プロジェクトにおいてクライアントの関心は、製造現場や施工現場という常に人や物資が移動し、潜在的な事故やケガのリスクが潜んでいる環境において、不慮のトラブルにより人員を失い、労働生産性や商品品質を下げ、ひいては企業価値の低下を招かないための施策の検討であった。こうした目的を達成するにあたり、従業員の安全・健康管理に関するデジタル化を推し進めることは重要である。安全管理のデジタル化には、代表的な要素として以下のものが挙げられる:
活動量の計測:作業現場では、従業員の身体的負担の可視化のためにウェアラブルデバイスを用いた心拍数や移動距離などの活動量の計測が重要。デバイスには腕時計型や身体に装着するタイプがあり、熱中症や危険状態が発生した際のアラート機能が搭載されたものもあるため、発見の遅れによる二次災害の防止にも効果的である。
外部環境の計測:資材配置や建物環境により、局所的な昇温や空気の滞留により危険な状況が発生してしまうことがあるため、WBGTセンサーや空気質測定器などによる外部環境のモニタリングが必要。
所在置情報の取得:広範囲にわたる作業現場では、万一の際の迅速な対応ができるよう従業員の所在の常時把握が望ましい。屋内外を問わずシームレスに測位するためには、GPSに依存しないBluetooth対応ビーコンやWi-Fi通信端末、UWB通信を利用した測位ソリューション等の併用が効果的である。
危険エリアへの侵入検知:従業員の動線だけでなく、特定のエリアへの立ち入りを検知することも重要な安全対策である。カメラやセンサー端末を用いたバーチャルカーテンの設定により、設備の死角をカバーしたり有害物取り扱いエリアへの人の立ち入りを検知し、事故の発生を防止することができる。
リアルタイムモニタリングとデータの蓄積:事故が発生する要因は環境によって傾向がみられるため、事故防止には過去に起きた事故情報を蓄積し、原因と対策を把握することが重要である。膨大な活動データから予兆を抽出し対策につなげるにはAIの活用も有効であり、安全管理のデジタル化ではデータの蓄積と利活用も併せて検討することが重要である。
JPTokyo’s Differentiators
JP東京は、製造現場の環境の分析から始め、事故防止や安全管理の実現のために必須のニーズを深く掘り下げる検討を行った。その結果、ターゲットとすべきリスク要因にフォーカスしたソリューション選定と、常時モニタリングのためのネットワークインフラの構築検証に加え、新たに導入するネットワークによる既存の通信回線への影響評価まで、導入時を見据えた統合的な検証を遂行することができた。このような包括的なアプローチを採用したにより、クライアントは実際の導入シーンを想起しながらメリットや課題点を検討することができ、クライアントのデジタル化の推進を後押しすることができた。