Gen-AIの力を活かす、超個別化美容の時代

Gen-AIは美容のハイパー・パーソナライゼーションを加速させ、同時に消費者が肌の問題をナビゲートし、肌の健康を改善する方法に革命を起こしている。

あなたのシーズンタイプは何ですか?

最初に思い浮かんだのが天気に関することであったのならば、もう一度考えてみてください。

美容業界では、4シーズンパーソナルカラーまたはパーソナルカラー診断がSNSで爆発的に流行している。美容インフルエンサーたちはパーソナルカラー診断のためにソウルまで足を運び、SNSで共有することで、ますます多くの美容愛好家のなかで流行が起きている。

では、「4シーズンパーソナルカラー」とは何なのか。

これは個人の肌の色、目の色、髪の色からその人に最も似合う色を特定する、韓国で人気を博した方法だ。「一枚の写真は千の言葉に値する(英語の諺)」というが、実際に色調には様々なバリエーションがあり、4シーズンパーソナルカラーの目的は、肌の色との最適な調和を実現し、消費者が自分に最も似合う化粧品やファッションなどを購入できるようにすることだ。

西欧ではまだあまり知られていないが、アジアで起こったこのトレンドはグローバル全体における決定的な傾向、すなわち美容業界における超個別化の流れを浮き彫りにしている。

世界最大の化粧品ブランドL’Oréalもこの流れを無視してはいない。L’Oréalは最新の年次報告書で、「すべての人のための美」から「一人ひとりのための美」へと方針転換すると発表しており、これは市場の新たな焦点であるパーソナライズド・ビューティーを的確に捉えている。また同社は、生成AIや機械学習といったテクノロジーを活用することで、個々のニーズ、期待、美の理想に応じたアプローチを提供することを目指している。

「一人ひとりのための美」と生成AIの役割

L'Oréalによると、消費者の約70%が膨大な製品の数に困惑しており、その多くが製品を知るためにソーシャルメディアを活用しているとのことだ。人々はどのように選んでいるのだろうか。知らない人のアドバイスに頼るのだろうか。

調査によれば、65%以上の消費者がSNSでインフルエンサーのレビューを見た後に化粧品の購入を決めているようだ2。またこのような情報は、どの製品が品質的に優れているのかという判断材料になるだけでなく、新製品発売の情報収集や製品の使い方を知る手助けにもなっている。

先述の、L'Oréalのテクノロジー駆動型超個別化の取り組みにおいて、AIはどこでどのように活用されているのでしょうか?

皮肉にも、インフルエンサーをAIに置き換えようとすると同時に、インフルエンサーとの協業をよりシンプルにしている。

L’Oréalは「Beauty Genius」と呼ばれるサービスを開始した。提供されるサービスはビューティークリエイターが行うことと非常に似ており、バーチャル上でAIがビューティーアドバイザーとして個別化された肌分析を提供する。ユーザーはバーチャル上でメイクを「試す」ことができるほか、製品のお薦めや美容のコツも提供される。このようなサービスが登場しても美容インフルエンサーの役割がなくなる段階にはまだ程遠く、彼らは今後も長く影響力を持ち続けることに違いない。しかし、懸念はある。

影響力の再生:生成AIは“インフルエンサーファティーグ(またはインフルエンサーへの不信感)”を和らげることができるのか

ソーシャルメディアでのマーケティングはこれまで以上に難しくなっている。インフルエンサーが金銭的報酬などのインセンティブを受け取っているために、消費者はインフルエンサーが商品の宣伝をすることに対して不信感を抱いている。たとえ、インフルエンサーのコミュニティが強固であったとしても、YouTube動画でスポンサー部分はスキップされ、スポンサーリンクは開かれず、フォロワーが全体的に警戒している傾向が見られるのだ。インフルエンサーは視聴者の信頼を維持するために、提携する企業を慎重に選び、不誠実に見えないよう努力をする必要がある。

このような難しい状況の中で、L'OréalのVCファンド「BOLD」が支援する動画広告会社 Rembrandt は、AIを活用して動画を分析し、フォトリアルな製品画像やアニメーションを映像内にデジタルで埋め込むツールを開発した。Regenerative Fusion™ の技術を活用して、インフルエンサーが動画内で製品について数分間話す代わりに、動画内にフォトリアルな画像を埋め込めば、視聴者がスキップしてしまうことの多い製品紹介の部分をなくすことができる。

また、このソリューションでは長い時間を要すスポンサーシップ締結のための過程が不要になるため、企業が小規模なインフルエンサーやクリエイターに協賛しやすくなるという利点もある。

このように、注目経済(アテンション・エコノミー)において、問題解決や新しいソリューションを生み出すためにAIがますます活用されるようになっている。しかし、AIにできることはそれだけにとどまらない。

手元の(生成AI搭載の)ビューティーアドバイザー

化粧品市場は本格的に回復傾向にある。パイパー・サンドラー社(米国に拠点を置く投資銀行及び証券会社)が半年ごとに公開している「Taking Stock with Teens」と呼ばれる最新の調査データによると、過去3年間で初めて10代の若者がスキンケアよりもメイクアップ製品に多く支出していた。また、全体としてこのセグメントは2028年までに年平均成長率(CAGR)6%の成長が見込まれる。

この回復は、太平洋の両岸においてメイクアップ製品に関する消費者行動の変化とともに進んでいる。

「クワイエット・ビューティー(Quiet Beauty)」と呼ばれるトレンドが広まる中、成分の品質や科学的根拠に基づいた製品の効果がこれまで以上に重視されるようになってきたのだ。美容愛好家は、化粧品の成分や効果についてより深い知識を持つようになり、かつての派手なパッケージや誇張されたマーケティングよりも、本質的な価値を見極める姿勢を強めている。

McKinsey社によると、Z世代の消費者の50%近くが購入前に徹底的に製品について調べているとのことだ5

グリセリンなどの基本的な保湿成分だけでなく、適切な美容成分や有効成分を使用して肌をケアする化粧品がメイクの「スキンケア化」の先駆けとなった。日本では、資生堂の人気新作ファンデーション「エッセンス スキングロウ ファンデーション」のように、美容成分が70%や80%、さらには90%を超えるような化粧品が新しいスタンダードとなってきている。さらに、メイクアップブランド全体が「ケア」を最前線に押し出しており、例えば、人気の韓国化粧品ブランドrom&nd(ロムアンド)の姉妹ブランドであるNuse (ヌーズ)は、スキンケア効果とクリーンガールの美学を思わせる自然な仕上がりを兼ね備えたカラーケアメイク製品を宣伝している。

しかし、知識が豊富な消費者であっても、製品の複雑な成分を把握することは容易ではなく、どの成分が自分の肌に合い、また避けるべき成分は何かを把握し、製品を新しく購入を検討する際に覚えておくことは、美容愛好家にとってさえ困難だ。成分変更を伴う製品のリニューアル、販売終了や新製品の発売などが相次ぐ中で、情報量はあまりにも膨大だ。

 

  こんなとき、10ペタバイトの美容関連データを持つ、前述の「Beauty Genius」が役立ちそうだ。この他にも生成AIを活用した新しいソリューションは次々と登場している。例えば、Haut.AI社が提供する「SkinGPT」は生成AIを用いて肌の状態をモデリングし、臨床的な主張に基づいたシミュレーションを用いて、スキンケア製品の長期的な効果を視覚化することができるとしている。

生成AIの登場

界中で多様化する消費者行動のトレンドは、超個別化という共通の要素に集約される。生成AIを活用する企業は、美容業界において消費者が多種多様な製品を選ぶ際の手助けとなるサービスを展開できる。生成AIのソリューションは、一般的な消費者がインフルエンサーの影響範囲を超えてインスピレーションを受けること、さらには皮膚科医からの臨床データやアドバイスを取り入れることを可能にする。加えて、肌の健康に対する関心が高まっている一方で消費者の知識が不十分である現状、企業にとっては生成AIを活用することで、そのギャップを埋めるような視覚的なソリューションを提供する機会となる。つまり、企業は製品を販売するだけでなく、消費者に教育することができる。

参考:

1.          L’Oreal Annual Report 2023

2.          Influencer Marketing Hub

3.          Piper Sandler Companies, Taking Stock with Teens Survey, Spring 2024

4.          Euromonitor

5.          McKinsey, the State of Fashion (Beauty) 2023 Report